2013年5月4日土曜日

誕生まで

彼の口唇口蓋裂が分かったのは、何回目の妊婦検診だったかな。

エコーを確認していた産科の医師が「兎唇」(みつくち、としん)と言って教えてくれた。私はその単語を知らなかったけれど、元看護師の妻には分かったようだった。インターネットを検索すると、口唇裂・口蓋裂のことだと分かった。



私が同い年の妻と結婚したのは 30代の後半。私は初婚だが、彼女には25の時に前夫との間に産んだ女の子があった。

私と出会うまでの彼女の人生は、順風満帆とは言いがたいものだった。肉親との確執、そして半年で破綻した結婚生活。離婚後、たった一人で娘を中学2年生まで育てた。

彼女と出会ったのは友人を通じてだった。ほんの数回デートをするうちに、おそらくこの女性と結婚するだろうという予感があった。一目惚れ、というのとはちょっと違うけれど、それは直感だった。

妻にとって、私との生活は初めて手に入れた幸せだったのだと思う。その彼女が私との子どもを望むのは自然なことだった。けれど既に40歳が目の前。あまり時間があるとは言えなかった。

結婚半年後に一度自然妊娠したものの、胎児がうまく育たず3箇月で稽留流産。妻の落胆は大きなものだったが、彼女は諦めなかった。不妊治療に通い、ホルモン注射で排卵を誘発。採取した卵子を人工授精させ、状態の良い受精卵を移植する。身体的にも金銭的にもきつい治療。妊娠確率も15%程度。何度も着床せず、「あなたは『努力したら、した分だけの意味があるはず』って言うけど、どんなに頑張っても結果が出なかったら意味なんかないんじゃないの?」 そう言ってうずくまって泣いていた彼女を見るのは辛いものだった。

「これが最後かな・・・」 そう決心して受精卵移植を行い、幸運にも着床・妊娠が確認できた時、私たちは41歳になっていた。

娘の妊娠時にもひどい悪阻だったという妻は、胎児心拍が確認できた直後には入院せざるを得なくなった。食事の匂いを嗅いだだけで吐き、吐くものが無くなっても胃液や胆汁を吐いた。吐きすぎて食道が傷つき、吐血した。入院から2箇月で事情により退院したものの、結局出産直前まで吐いていた。

 臨月に入った妊婦検診で胎児心拍が不安定だと診断され、予定日まで10日を残して陣痛促進剤を用いて経膣出産を行うことになった。しかし入院1日目の朝から陣痛促進剤を用いても出産に至らず、2日目に人工破水。しかし子宮口が開ききらず、出産できず。結局3日目の午後に出産することができた。陣痛促進剤の投与は延べ36時間に及び、悪阻で体力がほとんどなくなっていた妻を支えていたのは精神力だけだったと思う。出産したのは2013年5月3日、昨日のことだった。

生まれたのは3250gの男の子。 有難いことに、口唇口蓋裂以外の問題は今のところ発見されていない。

生まれた我が子は、やはり胎児診断のとおりに両側完全口唇口蓋裂であった。しかし、これ以上ないくらいに愛おしい。誕生の瞬間には、妻と向き合って泣き笑いになってしまった。涙を流したのは何年ぶりだろう。そんな我が子に対しては、しっかり治療をしてやりたいと思う。同時に、人様にはなるべくキレイな顔を見せたいとも思う。

妻は胎児の口唇口蓋裂が判ってから、苦手なインターネットを自分で検索して情報を収集していた。私も本を買ったり、口腔外科の場所を調べたりして協力した。そこで感じたのは、やはり具体的な情報の少なさだった。ブログもいくつか拝見して参考になったが、やはり画像は少ない。妻や私としては、画像を先に見 ておくことで心構えをしておきたかったし、治療の過程が詳細に分かれば心強かったのだが、一方で親としての気持ちもわかる。

そんなわけで少し悩んだが、やはり同じ症状のお子さんを持つ方、特に胎児診断で口唇口蓋裂と診断されたお母様のために、なるべく画像を載せながら治療の過程を記録したいと思う。画像は見る人によっては少しショックを受けられるかもしれないので、その点ご了承いただきたい。

この画像は生後2日目、今日の写真である。両側が裂けており、鼻まで達している(完全)ので、両側完全口唇口蓋裂と言う。助産師さんによれば私に似ているのだそうだ。

小児科の先生や保育士さんが授乳の方法について試行錯誤してくださっている。長くなるので、そのあたりのことは次の投稿に記したい。



18 件のコメント:

  1. 私も今年3月に、両側完全口唇口蓋裂の息子を授かった父親です。愛しいですよね。
    産まれる時に、ヘソの尾が首に巻き付いてまして…。緊急の帝王切開になりました。
    妻は、産まれた我が子を見せて貰え無かったらしぃです。初めて抱いたのは、私でした。
    心配そうに助産師の方が、息子を手渡してくれたのは今も記憶に残ってます。私の息子は、来月に唇の手術です。心配ながらも、きっと我が子ならと。
    信じる気持ちで一杯です。
    息子も私似だと、おっしゃってました。
    尚更、愛しいく感じますね!

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    1. コメントありがとうございます。
      お誕生、おめでとうございます!

      緊急帝王切開でしたら御心配だったでしょうね。しかしご無事で何よりです。
      3月御出産で7月に口唇の手術でしたら、とても順調ですね。

      お父様がしっかりと息子さんへの愛情を示していれば、奥さんは安心ですね。手術の前後はいろいろたいへんかと思いますが、きっと大丈夫ですね。

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  2. 家も今年の5月に娘が産まれて、9番目の子供として我が家に授かりました。
    でも無事に産まれて来てくれた事だけ感謝しました。
    8月22日に初めての手術をしました。
    とにかく体重を増やして、早く手術差せねばと必死に妻と交代しながらミルクで体重を増やしました。
    東京の品川に有る、昭和大学病院にて
    無事に手術出来ました。
    教授に手術は早めの方が傷痕が分かりにくくなるとの事で、とにかく五キロを目標にしました。
    その為に無駄に為ったミルクも相当量になりますが、娘の為なら痛くも痒くもありませんでした。
    何か家族一丸になり、凄い結束の様な物も確認できました。
    奄美大島から東京まで通うのは本当にきついですが、前より家族皆が優しくなりました。
    この子が家族をまとめているかの様です。
    この子が本当に愛しい娘で、人並みに成れる様に頑張りたいと思っています。
    そちら様も愛情をもう一人の娘様と妹様に惜しまず注いであげて下さい。

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    1. コメントありがとうございます。
      お子さん9人ですか!! 大変でしょうけど、楽しそうですね(*^^*)
      奄美大島から東京まで治療で通われるということで、ほんとうに頭が下がります。

      優しい御両親、お兄ちゃん・お姉ちゃん達に囲まれて、幸せな娘さんですね。傷痕を完全に消すのは不可能でも、きっと優しくて強い女性に成長されると思います。お互いに頑張りましょう。

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  3. 何回も失礼します。
    家も長男と娘の歳の差が21歳です。
    長女と三女の歳の差は20歳です

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  4. 目にしたときは、ショックを受けたでしょう。「自分の子供が…。これから先どうすればいいのか」と思いませんでしたか?僕の母親がそういう話をしてくれました。僕は、片側完全口唇口蓋裂で2000g弱でこの世に生まれてきました。生まれてすぐミルクを吸う力もなく体力もない状態だったそうで、悩んで悩んで落ち込んでしまったようです。しかし、大学病院の教授が「お母さんがしっかり気持ちを持ち明るく育てなさい。そうしなければ、この子は育たない」と言われ吹っ切れたそうです。そういう愛情で育ててくれたおかげで30年間生きることができましたし、これからも生きていくことができます。お子さんは、これから先いろいろな試錬があると思いますが、親御さんがしっかり道しるべとなり育てていかれれば大丈夫ですよ。

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  5. 私のいとこも両側の口蓋裂で産まれ、おじいちゃん、おばぁちゃんに、中へ入って下さい!心臓は悪くないですか?と言われたそうです。母親はなかなか会わせてくれなかったそうです私は姉妹のように育ちました。彼女は強く何回の手術も怖がることなく受けて今はどこがどう裂けていたっけ?と二人で言い合えるくらいに綺麗なお顔です。もともと美人、陸上部で、モテモテで今は結婚しましたが、候補が三人いて、一番良い人を・・・と選んで幸せになっています。仕事は夫婦で知的障害者施設で働き、自分の経験がとても生きているといっていました。あの頃から強かったですが、今でも県外出張をばんばんこなし、とてもガッツのある自慢のいとこです。私はガキ大将的な女の子でしたので、いとこの悪口をいった奴は許さん~!とよくまわりに言っていましたが、誰一人そんな悲しい事を言う子はおらず、今まで(30歳)まで生きてきたようです。手術頑張って下さい。いとこのように幸せな未来がたくさん待っていると思います。ご家族の皆様も頑張ってくださいね。失礼いたしました。

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    1. コメントありがとうございます。
      我が息子も色白のイケメンになるのではないかと期待しているのですが(笑、さて、どうなるでしょう(^^;;
      それはともかく・・・息子には自分の障害にしっかり向き合い、人様の事もしっかり考えられる、強くて優しい男になってほしいものです。
      リリ様の御親族のように、暖かく見守っていきたいと思います。

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  6. こんにちは。妊娠36週です。
    お腹の赤ちゃんは出生前診断で口唇裂の診断を受けました。
    初めて耳にする言葉にショックを受けると共に不安におそわれました。
    色々調べているとこちらにたどり着きました。だんだんと前向きに考えられるようになりました。
    ありがとうございます。

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    1. こんにちは。コメントありがとうございます(^^)
      36週! もう少しで赤ちゃんに会えますね!!
      私達も赤ちゃんと対面するまで、受け容れることができるのかと不安に思う気持ちが消えませんでした。それが普通だと思います。
      でも、大丈夫です。赤ちゃんは絶対にカワイイですから!

      ともかく今は、残りの4週間を心穏やかに過ごすことに専念なさってくださいね(^^)
      生まれたら、忙しいですから(^^;;;

      無事の御出産をお祈りしております。

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    2. 返信ありがとうございます。36週の妊婦です。
      ブログを始めから拝見させていただきました。具体的な情報やお写真、息子さんの立派に成長していく姿に本当に勇気づけられました。形成外科の先生とお話したり、インターネットで情報を集めたりして少しずつですが、心の準備をしています。
      これからもブログ拝見させて下さいね‼︎

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  7. リラクマコ2014/10/23 13:37:00

    36週の妊婦さん、はじめまして。不安な気持ちよくわかります。でもそれ以上に生まれた時の気持ちは格別ですよ?うちも6年前に片側性左側口唇口蓋裂で産まれました。はじめての子育てと治療で、参った時期もありますが、確実に治っていく姿と基本やんちゃに育ってますので、不安なんかどこへやら?確かに傷はわかりますが…、うちは男の子なんで、それ以上に足やら腕やらどこでぶつけたかわからんような痣やら傷のほうが出来ますよ(笑)それだけ元気です。まずは出産を頑張って下さい。後のことは、なるようになりますよ。お母さんがこころも元気でいないと!横からすいませんでした。

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    1. リラクマコさん、初めまして。36週妊婦です。コメントありがとうございます‼︎
      あと少しで赤ちゃんに会えます。実際のところ生まれてみないと程度がわからないとの医師からの説明に不安な気持ちはあります。
      医師から告知を受けてからは、何が原因だったのか考えては自分を責めていました。
      確実にきれいに治っていく姿を拝見させていただき、本当に勇気付けられました!
      こうして同じ立場のお母様からのコメントが勇気を与えてくれました。
      まだまだ産後の生活に不安はありますが、あと少しのマタニティライフ楽しみたいと思います!

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  8. はじめまして。ブログ拝見させていただきました。僕自身も口唇口蓋裂で産まれました。出生前診断では分からずね産まれた時に初めて口唇口蓋裂とわかりました。産まれた直後、医師は母がショックを受けると思いお尻だけしか見せなかったようです。別室で父が医師から病名を告げられ、最初に僕の顔を見たそうです。僕の顔を見た父は驚くこともなく「かわいい子やん。口も縫ったらええだけやん。」と言って医師をびっくりさせたそうです。
    そんな父とは対照的にね母は色々と悩んだみたいです。産まれて14日後から治療がスタートし何十年も通院し、何回も手術をしました。ブログを読ませていただきながら、こんな治療していたなと懐かしくなりました(笑) 今となって言えるのは、両親には感謝しかありません。心から感謝しています。これから治療でたくさんの事があると思いますが、頑張ってください!

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    1. たかみぃさん コメントありがとうございます(^^)
      文面から、御両親がどれほど愛情をもって貴方を育てたのかが、私にはとてもよく分かります。それは特別なことです。
      実際、お子さんに障害があっても、本気で取り組まない親御さんも時々いらっしゃるのです。特にお父さんが、治療も何もかもお母さんに任せきりで、お母さんが疲労困憊してしまうような・・・
      一方、貴方の御両親は助けあって長い治療を完遂させました。本当に尊敬できることです。

      私達の息子の治療はまだまだ続きます。不安はありますが、一歩一歩、貴方の御両親に近づけるように頑張ってまいります。

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  9. うーたんまま2014/10/26 22:38:00

    はじめまして。
    昨年9月に口唇口蓋裂をもって生まれた女の子の母です。私も看護師をしていました。ネットで色々調べるうちに、共通点もありブログを拝見させて頂いております。
    今年1月無事に口唇裂の手術が終わり、本当に綺麗になりました。生まれてから病気が分かり、ショックで毎日泣いていました。今は、何でもモリモリ食べて1歳で10kgを超え、超高速ハイハイでまま〜と追いかけてきます。本当に可愛くて愛おしくてたまりません。
    これからも治療や手術がありますが、普通の子育てを楽しみながら、笑い声に感謝して過ごしていきたいです。
    口蓋裂の手術、無事に終えられることを心からお祈りしています。そして、ブログを読むのが日課になっています。これからもよろしくお願いします。

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    1. うーたんままさん はじめまして。コメントありがとうございます(^^)
      1歳1箇月頃だと口蓋裂手術の予定時期にもよりますが、少し落ち着いているころですね。
      そして1歳で10kg! 女の子でその体重はすごい!
      口蓋裂手術の体重の基準が10kgだったりして、少し小さな子のお母さんは体重が増えなくて悩んだりされるのですが、それなら体重の心配はありませんね(^^;

      ハイハイ時期って超カワイイですよね~。そこから歩いたら歩いたで嬉しいのですが、ウチのはハイハイ期間が短かったので、あまり動画とかが撮れていません。今がチャンスなので是非、たくさん記録してあげてください(^^)

      ウチのヨメさんは、そろそろ再就職を考えています。たぶん託児施設のある病院にするんじゃないかと思います。まあその前に口蓋裂手術ですが・・・親子3人頑張ります(^^)

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  10. 私自身が口蓋裂で母は泣いたそうです。言語学校にも通いました。鏡を見るなとも、よく言われていて、その頃は理解出来ませんでした。口蓋裂で産まれた事を隠されて居たからです。自分が初めての子供を産んだ時帝王切開でした。私が歩けるまで誰も教えてくれなかったのですが、娘が口蓋裂でした。母は泣いて謝りましたが、私は母のせいでは無いから。と言って娘の手術とか等と向き合って来ましたが技術は進歩するもので娘は全く分からない位綺麗になりました。私は見た目で解るんですが。でも3年後父に言われました。もう1人産む気はないのか?お母さんが私の事で兄弟を作らなかった為産んで欲しいと。私は4歳違いで産みたかったので、その旨を話何も気にしていないと。遺伝する病気ですが、こればかりは解りません。無事に二人目も帝王切開で産みましたが遺伝しませんでした。
    口蓋裂で産まれてきた子供の親御さんは色々心配や悩み色んな事があると思いますが、希望捨てずに頑張って下さい。因みに口蓋裂で産まれた娘は早いもので、20歳です。

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